弥恵の「からだのかみさま」

東京→京都に移住したライター・弥恵(やえ)の日記です

バッタと猛獣ぽこ

風呂場にバッタがいた。近づいてみるとソーダー水みたいに透き通った体躯で、手足を6本、折り紙みたいに曲げてじっとしている。米粒型の頭から、髪の毛ほどの太さの触覚が3センチほど、2本、アーチ状に伸びていて、先っぽがまとまっている。ちょうど楕円状になった触角の先を、好奇心でつい指で弾いた。

 

すると触覚はツノのようにピンと伸び、先っぽがアンテナになって周りの周波数を探り始める。その動きは目に見えないものを捉えようとしているようで、注視してたらクラクラしてきた。しばらくすると、バッタは前足で自分の頭をひたすら撫で、その前足を舐めるのを繰り返したので、私は一層彼のことが愛おしくなった。ちょうどそれは、ぽこが身だしなみを整える時に前足で垂れた耳を挟みぺろぺろ舐めるのと同じだった。バッタの目的は知らないけど、自分の身を綺麗に整えるような動物の仕草は、なんとも慎ましやかで、美しい。

 

すると突然、視界から消えた。浴槽の角っこにいた。「ここにいても退屈だと思うよ」と言い聞かせて、手のひらでそっと包む。手の中で、バッタがぴょんぴょんはねるので、何か泡でも弾けているようにくすぐったい。両手が塞がってドアが開けられず、指の間が開いた隙に、バッタはビョンと飛んでいった。

 

あろうことか、バッタが着地した先では猛獣ぽこがたった今あくびをしたところだった。長い触覚が、明らかにぽこを探っている。バッタが飛んだ瞬間、その跳躍が視界に入ったのか、ぽこが近づいてきた。対峙するバッタと、彼からすれば小高い丘くらいの大きさに見えるであろうぽこ。瞬間、両者のひたいに張り詰めたものが流れた気がしたが、緊張感よりも好奇心のほうが勝ったと見えて、まずぽこが鼻先を突き出した。同時にまたバッタが飛び、みると忍者のようにテーブル裏にへばりついている。ぽこはそれに気づかずテーブル下を素通りして、ありゃ?という顔で振り返る。

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バッタを素通り

 

ぽこはその後もテーブルの周りをぐるぐる巡回し始めたので、その度にバッタはあちこちに飛んで避難する。その度にせわしなく触覚が動いて回るのがだんだんかわいそうになってしまい、私は両手で包んで、開きっぱなしの寝室の窓からバッタを逃がした。

 
窓の下には、使われなくなった田んぼが広がっている。そこからキリギリスの鳴き声が這い上がってくる。きっと彼もそこからやってきたに違いない。昨日、一帯は草刈機で全てかられてしまい、今でも蒸した葉の香りが風に上がってやってくる。母と顔を見合わせ、「虫の声が減った気がする」といったが、一晩経ったら、また鳴き声が戻ってきた。そういえば昨日から涼しくなって、ミンミンゼミが鳴き出した。

 

 

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バッタよりカメラ目線

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ぽこのけつの向こうに避難するバッタ

 

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隅っこちゃん