弥恵の「からだのかみさま」

東京→京都に移住したライター・弥恵(やえ)の日記です

恋を借りたスタンプ

お昼に友達のカンナちゃんから電話がかかってきた。受話器の向こうから、山手線駅のホームで、発車とともに音楽が流れた。「今会社のビルの屋上なの」という声が変に明るくて、もういまにも泣きたくて辛いのが伝わる。その瞬間に私の体内、右心房裏あたりにある箱「20代後半山手線」が開いて、「あー。いってえ」と目をつむった。

 

「久しぶりに連絡したの。元彼に。会いたいような会えないような変な気持ちで。そしたら結婚して、子供できてた。来月生まれるって」

 

「そっかあ、でも振ったのはカンナちゃんなんでしょ?」

 

「うん。プロポーズされてて、でも結婚はまだできないと思って。ならどうして一緒にいるのってなって」

 

矛盾してるけど、矛盾してるからとんでもなく心が痛む。それも良くわかる。右肩あたりの「過去の恋愛」という箱が開く。風圧で、燃えカスが舞って消える。

 

「今でも好きとかじゃないの。でも久しぶりに電話したら、付き合っていた頃、私は彼に言いたいことをいつも飲み込んで、それが辛かったのを思い出したの。そしたらまた、何も言えなくなって」

 

「不完全燃焼なんだね」

 

「うん、だからもう一度、話がしたいと思った。よりを戻したいとかじゃない。なんなんだろ」

 

「スタンプが欲しいんじゃない?」

 

「へ?」

 

「今のカンナちゃんなら、『言いたいことをちゃんという』ってマスに、スタンプが欲しいんじゃん。これによってちょっと成長した!よし頑張った!ぽん!みたいなスタンプ。それが今、たまたま元彼ってテーマの中で出てきたんじゃないかな。

そのために彼の懐借りるのはありだと思うよ。彼との関係性をこの先どうこうする気がないのなら、懐借りてやり切っちゃえばいいと思う。そんで燃えかすだけにしてスッキリしたいんじゃない」

 

「うん。うーぞうがぼおおお(泣)」

 

背中の「20代、会社員、昼間に友達に電話して泣く」の箱が開いて、愛おしい気持ちになる。なんて元気なんだろうこの子。この後また何事もなかったように仕事して、夜になったら元彼に電話するんだろう。すごい体力だな。だけどそれが20代だったよな。

 

翌朝、メールがきてた。本人がいいよ〜と言ってくれたので抜粋するとこんな感じ

 

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  心は本当にどこまでも広がってる。

 

青空。

どこまでも広がってる心。

広がった先で宙ぶらりんになっていた気持ち。

を、許して。

 

その枝の先で、ちゃんと実をもぎ取って、カンナちゃんは帰ってきた。

 

一度あったことは、思い出せないで忘れているだけなのと一緒で、あらゆる身体の箱の中に、光とか虹とか、濁流とか埃とか、いろんな形に変わって、ずっとそこにいる。だから時々ちゃんと開けて、ちゃんと羽ばたかせたり、すす払いしたりしてあげたらいいんだろう。不思議と彼女の話を聞くたび、私も同じように古くなった想いを祓っている。

 

彼女よりちょっと年上の私などは、ねーさん気分で思う。よかよか。恋は燃えカスになって風に散るまでが恋。ほとんどの恋は、その時自分が乗り越えなくちゃならないものをてんこ盛りにこさえてて、返り血浴びるのも厭わずにどんだけ向き合ったかでしか、次の出会いに進めない。そんな気がする。

 

まあ終わった恋など、鼻を噛んだティッシュみたいなもんだよな、などと無粋な私は思ってしまうのだけど、カンナちゃんのメールを読んだら、会社員の傍らアーティストでもある彼女は、このあと、何かいい作品を生み出すのだろうなあ、という予感が、僭越ながらしたのだった。

 

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ちなみに本日の鴨川。水かさが高くなってて、サギたちがあんなところに避難してる。真ん中にいる黒いのがカラス。こういうとき魚ってどうしてるんだろう。。。