弥恵の「からだのかみさま」

東京→京都に移住したライター・弥恵(やえ)の日記です

安らぎの更新(大沢温泉16日目)

当初、私の湯治生活は2週間ほどで終わるはずだった。最後の2日間ほどを、後から合流してくる夫と過ごし、一緒にやってくるMr.ベルツリーと晩御飯をちょいご一緒でもさせてもらって、「ではごゆっくり」と、にこやかに立ち去るはずだった。

しかし来てみて数日で、2週間で帰るのが惜しくなってしまった。渓谷の水音を聴きながらの入浴、和室での読書や原稿書き、炊き出しコーナーのおばちゃんと交わす挨拶。なんたって湯治場とくればどれだけぐうぐう寝ていても誰にも文句は言われない。

これまで旅先の滞在といえばゲストハウスやシェアハウスが主だった私には、部屋にこもってても放っておかれるこの空間こそ求めていた場所のような気がした。山登りが趣味だの旅が好きだのいうと、よほど活発に出歩いている印象がするらしいのだけど、それはグリーンシーズン限定のもの。寒くなったら冬眠して、1年の清算がしたい。

地元こそ温泉街なので、実家にお世話になるのもありなのだが、ただでさえ繁忙期であるスキーシーズンに休息のつもりで滞在するのは忍びなく、おまけに私はイイ話し相手になってしまう。場の影響を受けやすい自負はあるが、人の影響を受けたり、相手によって輪郭を変えてしまう自覚はもっとあるので、やはり年に一度でも一人っきりになるまとまった時間が必要なのだなあと思った。妻でも娘でもライターでもなんでもない時間と空間によって、ズレた焦点を合わせることで、春からまた頑張ろう、と思っていたのだった。

そして2週間がすぎるころ、いつもなら「帰ろうかな」と腰が軽くなる感じがどうもしない。それどころかますます座布団とお尻は仲良しになっていく一方だ。温泉に浸かりながら、ほぐれていくマイボディ。なのに、胃腸だけがちょっとだけ元気がない。ふと手を当てながら、なんで回復しきれてないのか思いを馳せる。すると妄想のなかで、ピンク色の胃腸がこんなことを喋り出した。

「あなた、このおこもりはなんの精算だと思って? 8月に突然の引越し、10月に夫の退職、入院、12月には移住決断、おまけに同月には家まで決めたわよね。ああ、そんで仕事も、ここ最近にしちゃ頑張ってた方よね。

そして1月には、1年ぶりの風邪を引いて、いつもなら1日で治すくせに、半月近くも寝込んだわよね。土の気配がないとこれ以上治る気がしない、治す体力がもうないとかいって、実家にまで泣きついてたわよね。それにあなたって生理だけは順調じゃない? なのに10日も遅れるなんて、未だかつてなかったはずよ。

あなたはこの2週間を、激動の半年間の精算だと思っているようだけど。甘いのよ。あなたにちゃんとこの時間が与えられているのは、移住前後の切り替え時期における、10年単位の休息のためなのよ。そのぶんの疲れが出て、それを癒す旅が始まったと私に命じ直しなさい。それに次の10年、あなたは言葉の飛距離と範囲をうんと伸ばして、あれとかこれをどんどん形にして、さらにはお子も宿し育てるのだから、しっかり全身に大地の熱を入れなくてはいけないのよ! 」

とかなんとか。不思議と痛みを辿っていくと、まぶたの裏にうつる光景のなかに、あのとき無理したこと、このときつらかったこと、その一瞬一瞬が浮かんでは、胃腸がキュッとなった気がした。

よし、まだまだ休むぞと決めたら、すっかり気分良くなった。こうして、東京での約束がある1週間後に間に合うよう、好きなだけ滞在していよう、と納得した。そうして、夫がやって来た。

PS こんな感じでいつも書いてるのます DSC_0250