弥恵の「からだのかみさま」

東京→京都に移住したライター・弥恵(やえ)の日記です

私は春に生まれたんだった。(大沢温泉4日目)

こっちにきて3日間はミノムシになった。温泉に入る以外はひたすら布団にくるまってる。ぱらっと詩集をめくったり、ぼーっと海外ドラマを流したり、スカイプで夫の顔をただじーっと見てたり、あとはちょい仕事したり。動きたくなるまでは動かないと決めた。ちょうど雪がふり続けていることだし。

4日目の朝、身体にムズムズくるものがあった。源泉パワーがしっかり身体に行き渡った感じで、芯にようやく火が灯った心地がする。

障子の向こうが明るい。晴れると、夏以上に眩しいのが雪国だなあと思う。窓の外に迫り来るような真っ白い山肌の向こうに、青空が流れてる。今日はバスに乗って街まで行こう。スーパーで野菜を買って、作り置きでもしよう、とのんびり着替えた。夫から電話。「今日はミノムシからサナギになります」と報告しておいた。

山の裾野に家がポツポツ見えて、バスが進むたび、家々がだんだんこちらに近づいてくる。平野をひたすら進み、街中に入って、花巻駅についた。イトーヨーカドーまで歩き出した。だいたい20分くらいかな。ちょうどいい散歩になる。歩くと身体に空気が行き渡るなあと思う。ところどころ道が凍っている。

でもなんか、まだ心ここに在らずだな。身体を動かせていないと、旅の非日常を受け止められるほど、いまいち気持ちが代謝していかない。頭の中にグーグルマップを呼び出して、自分の立ち位置を俯瞰して、そっからピンチインして、今地球のこの辺りにいるなって赤ピンをうつ。土地勘がないから余計に実感がない。あ、いいんだ、今日はまだサナギだった。もういいや、今のなし。

ちょっと歩いただけなのに、部屋についた途端猛烈に眠くなって、ミノムシに戻った。眠りに落ちるほんの一瞬、洗いたてシーツの洗剤の香りに沈み込みながら、身体のなかでうごめいている何かに触れた。細胞が狂ったように踊ってる。ここ最近ずっとそう。こんなに眠いのに、ずっとざわめいてる。大きな変化に備えて、身体の内側で何か起きてるみたい。そんなの、始めた覚えがないのにな。ああだから温泉に入りたくなったのか。燃料が必要だったのか。

夜、友達と電話で話す。「1月は私も調子悪かったな。インフルの後は胃腸炎になったよ。でも治ってすごい軽くなって、もう会社行ってる。そうそう、最近すてきな出会いがあったの。弥恵ちゃんにも見て欲しいな、ちょっとインスタみてよ、えーと」。金曜夜、ほとんど興奮状態でお互い喋り尽くして、眠くなるまで喋って喋った。おかげで頭が空っぽになった。

女の人の強さが好きだ。大抵の女性は本来えげつない力をコントロールしようとして、しょっちゅう失敗して生きてる。そんで「やっちゃったー☆まいっか」なんて、28日周期で傷さえ直してしまう。まるで生まれ変わったみたいに。

でも、季節がもっと土深くを見つめている間、何かを鎮めようと降りしきる雪や雨が続くさなか、どうにも力が出て来なくなったりして、そんな隙間のうち、いとも簡単に傷ついて、うっかり強さを封印してしまうことがある。封印してる時間が長いだけで、本当は強いのを忘れかけてる人もいる。

私たちはお互いに、ただシンプルに健やかに生きてるだけで、「ダメよそんな呪いに負けちゃ」と頰をひっぱたき合う役割がある。そうやって殻を壊し合うことをやめてはならないね。そして、休むことが、進むことであることを、忘れてはならないね。地中深くのマントルに子宮をつなげて、大地と溶けて生きてるこの身体は、もうほとんど自分のものじゃない。だからあなたの身体が時々わかる。

春が近いんだ。今年はどうにも、本番を迎える緊張感がある。ただ引っ越すってだけじゃなくて。。。散々、都会へ自然へ神域へと、とっちらかってた自分がやっとぼんやり同じ方向を向いて、まとまり一つになっていく感じがあって、なんていうのかな、これまで自分を推し進めてきたエネルギー原料が「反動」なら、これから先は、もっと子どものころの身軽さに還っていく感じがある。日に向かってただただまっすぐ枝葉を伸ばす素直さ、山さえ割ってマグマを噴出する突破力、カニとかうなぎとか、みんなでおいしいもの食べてると悲しみが思い出せなくなる気楽さ、そういう女のしぶとさを提げて。

私は、影のない光を、本当は知ってる気がするんだよな。

そんなミノムシデイズなのでした。そうだった、春が近いんだ。私は、春に生まれたんだった。